女性を沼に引きずり込むホストクラブの高額請求、現行法でどこまで戦えるか?

ホスト

ホストクラブの高額請求による被害が注目を集めている。巧みに女性客を取り込み、売掛と呼ばれるツケ払いシステムを用いて借金をさせ、最後は脅かしながら取り立てていく手段は、反社会的勢力の手口そのものと言える。

これに対して、立憲民主党が「悪質ホストクラブ被害対策推進法案」を衆議院に提出したが、自民党の筆頭理事は「この国会では取り合わない」とコメントした。被害者を守る法律は皆無なのか。この問題に積極的に携わり、現行法の解釈や法案作りを進めてきた参議院議員の塩村あやか氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

 ──立憲民主党は11月30日に「悪質ホストクラブ被害対策推進法案」を衆議院へ提出しました。どんな法案なのか教えてください。

塩村あやか氏(以下、塩村):この法案の正式名称は「特定遊興飲食高額債務問題対策の推進に関する法律案」です。ホストクラブを中心に、高額請求が問題になっており、対策していくための法案を出しました。

──ホストクラブ以外では、どんな事業者が対象になるのでしょうか?

塩村:例えば、メンズカフェやコンセプトカフェなども該当します。本人の支払い能力を超えるような飲食を提供する事業者です。

先日、私が出演したテレビ番組でも取り上げられていましたが、16歳の女の子がコンセプトカフェに通い、かなりの金額の売掛を膨らませて、支払うために売春をしているという事案があります。

路上売春する女性たちが「たちんぼ」と呼ばれて社会的に注目を集めていますが、彼女たちが一斉摘発された時に、なんとその4割がホストクラブへの支払いが原因だったことが分かりました(※)。こういった事件が続いているので国会で取り上げさせていただきました。

※今年1月から9月までに新宿区立大久保公園周辺で摘発された16歳~46歳の女性80人の4割が、売春の動機はホストクラブの支払いだと語った(大久保公園の立ちんぼ、今年80人摘発 4割はホストクラブのツケが動機 警視庁【産経新聞】)

──立憲民主党のHPでは、本法案に関して「基本的施策には、新たな社会問題である悪質ホストクラブ問題の実態を調査することや、相談体制の整備、被害者の社会復帰の支援、教育・啓発の推進、連携協力体制の整備を国等が行うことを定めています」と書かれています。被害者の不当な支払いを停止したり、不当な支払い分を事業者に払い戻させたり、悪質な事業者に罰則を与えたりといった側面はこの法案にはないのでしょうか。

■ ホストクラブの高額請求に対して使える現行法

 塩村:「悪質ホストクラブ被害対策推進法案」は理念法ですので、現行法を最大限に活用することを目的にしています。この法案が法律として成立したとしても、何かが急にできるというわけではありません。現行法を応援するための法案です。

 ただし、国の責務を明記し、地方公共団体とホストクラブの協力と連携を条文化し、法的根拠を持たせました。つまり、国の方針に地方公共団体も、ホストクラブも協力をしないといけないのです。

ホストクラブの高額請求問題の対策として使えるはずなのに、まだちゃんと使えていない法律というものが複数あります。ホストクラブの高額請求は巧妙に作られた手口で、現行法をすり抜けてきました。我々はどの法律が、どういう定義のもとに、どのような場合に使うことができるのか、協議を重ねているところです。

 ──ホストクラブの高額請求に対してはどんな法律が使えるのでしょうか? 

 塩村:現在、議論されているものの一つが、消費者契約法の第四条にあたる、いわゆる「デート商法」です。この法律がホストクラブの高額請求に対して使えるという国会での答弁を消費者庁の担当者から取り、そのことは広く報じられてきました。

 ところが、その後、実際に高額請求をめぐってホストクラブと闘っている被害者の親から「この法律は使えないのですけれど」というご相談をたくさんいただきました。

デート商法とは、顧客に恋愛感情を持たせて契約などを締結させる悪徳商法です。ただ、ホストクラブの場合は女性客とホストが男女の関係になり、女性客のお店に対するツケをホストが肩代わりして、女性客がホストに支払いをするという形にしている。

 条文では、「事業者」と「消費者」間の契約行為と定義されていますが、彼氏と彼女のお金の貸し借りを装っているため、条文通りだと対象から外れてしまうのです。

 それでも、政府はデート商法は本件に使えると主張している。そこで「どう使ったらいいのか示してほしい」とお願いしたところ、11月30日に消費者庁は下記の文言をデート商法に入れました。

 

【消費者庁の発表】
「ホストクラブなどにおける不当な勧誘と 消費者契約法の適用について」から一部抜粋

ホストクラブの従業員であるホストなどが、消費者(以下「客」という)に飲食などの契約を勧誘する際に、〇客が社会生活上の経験が乏しいことから、(1)ホストに対して恋愛感情など好意の感情を抱き、かつ(2)ホストも客(=自分)に対して恋愛感情など好意の感情を抱いていると誤って信じていることを知りながら、〇これに乗じ、飲食などの契約を締結しなければ(例えば、酒類などを注文してくれなければ)ホストと客の関係が破綻することになる旨を告げることにより、〇客が困惑し、飲食などの契約の申込み等をしたときは、本法に基づき、この契約を取り消すことができます。

なお、仮に、ホストが恋人間の個人的なやり取り(売掛金の立替えなど)だと主張している場合でも、ホストが本法上の事業者に該当する場合で、本法の要件に該当する不当な勧誘をしていれば、その契約は取り消すことができます。

 【参考】
◎「ホストクラブなどにおける不当な勧誘と 消費者契約法の適用について(消費者庁)」

 これは担当省庁による有権解釈(拘束力を有する権限のある機関による法の解釈)です。今後デート商法はホストクラブの高額請求の訴訟などで使えるものになります。

■ 現行法の解釈で埋める悪質ホストの外堀

 ──これでホストの高額請求問題がだいぶ解決するようにも見えますが。

 塩村:いろんな問題の解決につながっていくと思いますが、これですべて解決というわけではありません。

 現状ではまだ、被害者本人が被害を受けているという自覚を持ち、自分で裁判を起こしていかなければなりません。昨年から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。20歳以下の年齢でも、本人が自分で提訴しなければなりません。

 被害者本人が、自分が被害を受けているということに気づかなければ始まらない。そのようなハードルはあるでしょう。でも、逆の言い方をすれば、本人が気づきさえすれば、今まで以上に裁判で争えるということです。

 ──塩村さんは以前、職業安定法もこの問題の対策に使えると説明されていました。

 塩村:職業安定法に関しても、我々の要望を聞き入れていただき、厚労省に本件に対応する法律の条文解釈をHPに掲載してもらいました。今後は、ホストやスカウト(性風俗産業に斡旋する業者)が、売掛金の支払いなどのために、女性客をマインドコントロール等を用いたり、教唆をして性風俗業で働かせることが禁止になります。

 【性風俗・売春等の仕事の紹介は違法です】
(厚生労働省のHPより一部抜粋)

ホストクラブでの飲食代などを返済させるために、性風俗や売春などの仕事を紹介することや、マインドコントロールの手法を用いてこれを行うこと等は、職業安定法で禁止されています。これに違反した者は、罰則の対象となります。

(同ページ Q&Aから一部抜粋)
Q ホストやスカウトが、売掛金(いわゆる「ツケ」)の回収のために、客の女性に、性風俗や売春の仕事をあっせんした場合、職業安定法に違反するのではないか。
A 一般に、性風俗や売春などの業務に就かせるための仕事の紹介等は、職業安定法違反に該当すると考えられます。

 【参考】
◎「性風俗・売春等の仕事の紹介は違法です(厚労省)」

 厚労省のホームページには、ホストが売掛金の返済を目的に女性客に現金を要求し、スカウトを介して、ソープランドで働かせて検挙された事例も記載されています。これは最近の事例です。

 このように、私の国会での質問以降、現行法の解釈を、これまで以上に現実問題に適応できる形に変えていく動きが進んでいます。

 ──今後、被害にあった方はどこに相談すればいいのでしょうか? 

■ 政治家が悪質ホスト問題にかかわろうとしない理由

 塩村:被害者の親はまさにその点で悩んでいます。これまでは、警察に行っても、お金の絡んだ痴話喧嘩という感覚で、ちゃんと取り扱ってもらえませんでした。弁護士に相談しても、先ほどのデート商法の定義に当てはまらないからと受けてもらえなかった。

 そこで、被害者の親たちは一般社団法人「青少年を守る父母の連絡協議会」(通称 青母連)などに相談して、各々が対策を講じていました。これではまるで、政府がNPOに丸投げしているような状況です。

 被害者の女性たちが、高額な売掛金を払うために、海外で売春される事例まであり、人身売買の国際シンジケートになっているという恥ずかしい状況があるにもかかわらず、政府の明確な対応はなかった。

今は厚労省、消費者庁、警察庁、内閣府などが、各々独自に対策を出そうとしている状況ですが、これでは逆に、どこに相談すべきかよく分からない。ですから、相談先をなるべく一本化してほしいというお願いもしています。

 まず、武見敬三厚労大臣が、婦人相談所で相談を受け付けると国会で答弁しました。今後は警察庁や内閣府とも連携をして、より深い対策を打っていくはずです。

 ──今回提出された「悪質ホストクラブ被害対策推進法案」は、これからどのような審議プロセスに入り、いつ頃結果が出るのでしょうか? 

 塩村:非常に残念な話ですが、与党にはこの法案に乗っていただけませんでした。今国会での成立は絶望的な状況です。それもあり、我々は現行法の解釈を改善していく方向で動いています。

 ──立憲民主党以外で本件に積極的に取り組んでいる党はあるのでしょうか? 

 塩村:他党からは1件も質問は出ていません。そこにはいくつかの理由があると思います。

 一点目は「男がキャバクラでぼったくられるのと何が違うの?」という認識です。ホストがスカウトとつながっていて、場合によっては人身売買で女性を海外で売春させている。そして、自分の返済能力を超えた支払いの与信が何かと言えば、若い女性の体であるということに対して理解が追いついていません。

 もう一点、政治家たちがこういう問題にかかわろうとしない理由として、ネットなどで叩かれるということがあります。私もだいぶいろんなことを言われています。

 最初はこのような問題に対して法整備が必要だと世論が盛り上がりますが、その後に必ず反対勢力が出てきてネットで攻撃してくる。これはアダルトビデオの法律を作った時もそうでした(※)。

 女性に関する問題に、女性議員が先頭に立って主張すると、他の男性議員たちは引いていくということもあります。「女性側の自己責任」という気持ちもあるのでしょう。過去に、成人男性も多く被害に遭った「デート商法」問題は対策法がスムーズに成立をしたことを思えば、とても情けないと思います。

 ※塩村あやか議員が中心的に動き、本人の意向に反してアダルトビデオに出演することになった女性を救済することを目的とした、AV出演被害防止・救済法、通称「AV新法」が2022年6月15日の国会で与野党の賛成多数で可決・成立した。

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