洗脳されるホストたち「閉鎖空間での暴力支配」の実態

ホスト

ヤフー引用

国会に対策推進法案が提出されるなど、社会的関心を集める悪質ホスト問題。
外部からは伺いにくいホストクラブ店内の実態を、元ホストの男性(20代)が証言した。
彼が働いていた新宿・歌舞伎町の店舗では、「『DV』が繰り返されていた」。
内勤スタッフが新人ホストを暴力や暴言で、売上最優先の思考へと追い込む。
そしてホストも、女性客を暴力でコントロールして「風俗へ堕とす」。ホストクラブという閉鎖空間における暴力支配の実態が明らかとなった。

● 気さくだった「内勤さん」が 豹変した“あるきっかけ”

 「退店するとき、ホスト時代のことを外で話さないように言われました。そのため、身バレは避けたいです」

 都内の会議室で取材に応じた、ジンさん(仮名)はこう話すと少しおびえた様子を見せた。彼をホスト業界に引き入れた人物や、働いていたホストクラブXの存在は確認できたが、彼の意向を踏まえ詳細は控える。勤務歴についても、所属店舗の実態を証言するのに、十分な期間とのみ記す。

 ジンさんは店で働き始めると、挨拶の仕方やドリンク作りなどに関する店舗研修を一週間ほど受けた。この間、先輩ホストや「内勤さん」と呼ばれるスタッフ(以後「内勤」)は、共に親切だった。「分からないことがあったら、何でも聞いて」と、気さくに接してきた。

 ところが、正式配属になると、内勤の態度が豹変した。複数人いた内勤は40、50代の男性で、中には元ホストもいる。店の売上は、自分たちの雇用や給与にもろに影響する立場だ。内勤の態度変化を、ジンさんは「ホストよりも、お金にこだわるため」と分析する。内勤と違って先輩ホストは、引き続きジンさんには親切だった。

 内勤は、ジンさんら新人ホストや一定期間働いても売り上げが伸びないホストに「『DV』をしてきた」。

 ドメスティック・バイオレンスの略語である「DV」とは、元を含む配偶者や恋人など親密な関係を持った人から振るわれる、心身への暴力を指す。だが、本稿ではジンさんの発言そのままに、閉じられた人間関係での暴力的行為という意味で使用する。

 ジンさんが気に障る行為をすると、内勤は女性客から見えない店舗裏に連れ出した。そこで「何してんだよ」と言いながら、顔や肩を殴ったり、蹴ったりしてきた。時にアザができるほどだった。

 ジンさんは、一般的な成人男子の体格を有しているが、あえて抵抗はしなかった。「ホストを続けたかったので、店に居られなくなるのが嫌だった」からだ。

 怒りの沸点が低い内勤も多かった。普通に会話をしていたはずなのに、「お前、それどういうことなんだよ!」などと、いきなりキレた。今振り返っても、ジンさんは「理由はわからない」という。

 彼らは売り上げを上げている「ナンバー入りホスト」と、売り上げが伸びないホストで、露骨に扱いを分けた。前者に対しては、自ら挨拶し、世間話を振るなど愛想よく接する。ジンさんも含む後者に対しては、上記のように暴力・暴言を吐き、さらに無視をしたり、日常的にぞんざいな態度を取ったりした。

● DVされたホストが 女性客にDVする悪循環

 太客の女性が店で大金を使った後は、彼女と担当ホストにジンさんら新人ホスト、内勤も含め、外に飲みに行くこともあった。ジンさんが酔っても、内勤は酒を勧めてくるし、「次の店に行くぞ!」と容赦ない。アルコールハラスメントという概念が存在しない世界だった。

 ホストクラブでは、新人ホストらが閉店後の店舗掃除を担っている。
「内勤さんは、僕らのことを掃除要員としか認識してなかったですね」。
ジンさんの率直な感想だ。

 ジンさんら同じ境遇のホストたちは外に飲みに出ては、内勤のこうした態度を仲間内で非難した。
こうしたガス抜きをしても、精神的に滅入ってしまうホストもいた。

 乗り越えようとするホストたちは、「内勤に機嫌よく接してもらうためにも、何としても売り上げを出そう」と考えるようになった。

 毎日、出勤した先でビクビクしながら過ごすのは嫌だ。ナンバー入りホストと同じような扱いを受けたい。そのためには、どんな手口を使っても構わない……。ジンさんは、新人ホストがこうなることを分かって、内勤があえてDV的態度を取っているとする。

 「売上最優先の思考」に追い込まれた新人ホストらは、内勤を見習ってDV的な手法を女性客に使うことを考える。自分に気があるとにらんだ女性を見つけると、24時間つながれる態勢を整える。内勤とは店で毎日会うが、女性とはそうはいかないことから、LINEで文章を送り、頻繁に電話を掛ける。

 相手の寂しさを埋め、精神的に依存させる。そして、優しく接しつつ、いきなりキレたり、威圧的な態度に出たりする。あえてモラハラな面を出していくと、女性はホストの顔色を伺うようになる。もちろん、必要に応じて枕営業もするし暴力も交える。


● 女性客2人を「風俗に堕としました」

 ジンさんの店には、二桁人数のホストが在籍していたが、こうしたDV的手法を駆使していたのは、半数ほどいた。

 「『DV』をやっているホストのほうが勢いがありました。『DV』は稼げるのです」

 ジンさん自身は、「『DV』を継続するのはエネルギーを使うし、自分には向いていない」と実行しなかった。確かに、穏やかな雰囲気を漂わせるジンさんが、女性に暴力を振るったり、暴言を吐いたりする姿は想像できない。

 そんなジンさんでも、女性客2人を「風俗に堕としました」と告白した。ホストになった後、ジンさんは売り上げを上げるべく、閉店後に歌舞伎町内でのナンパに励んだ。その2人は、別々に路上で知り合った。1人はフリーターで、1人は大学生だった。

 LINEを小まめに送っていると、来店するようになった。彼女たちは、他のホストクラブにも通っていた。あるとき、話をしてみると、お金が続かなくなったことから、2人はともに「夜職」についていた

 ホストクラブ内では、女性客の職業を聞くことは、ホストの禁止行為である「爆弾」の一つとされる。それでも自ら口にする女性もいるし、売上に直結することから担当ホストは把握済みだ。また、雰囲気から察せられることも多い。

 ジンさんは、働いていたホストクラブXの女性客は、風俗関係の「夜職」7割、自営業・専門職・会社員などの「昼職」2割、残る1割を不明と分類。このうち、夜職の多くがデリバリーヘルスなどで肉体的接客のある「ガチ風俗」とした。

 お酒をあおるように飲むことに限界を感じ、ジンさんはホストを辞めた。

 今回、リスクがある中でホストクラブの実態を証言したのは、悪質ホスト問題で社会的な関心が集まるからだ。

 「女性とお酒を飲むだけでお金をもらえて美味しいと、ホストの仕事を勘違いしている若い男性は多いかもしれない。僕もそうだったけど、それで業界に入ると危ない」

 「新人ホストもよほど容姿に恵まれるなどしない限りは、全ての女性と同じく搾取される側です。内勤の『DV』でホスト脳になり、お金第一にならないとやっていけない。そんな世界だと、知ってもらいたいです」


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